読書感想文


天離熾火(あまさかるおきび)
斎姫異聞
宮乃崎桜子著
講談社X文庫 ホワイトハート
2001年5月5日第1刷
定価530円

 「宝珠双璧」に続くシリーズ第12巻。
 平安の都に黄泉の国に行けず漂う霊たちが多数現れ、人々を襲う。怨霊を浄化する力を持つ義明だが、あまりの多さに全てを浄化することもできない。そんな中で彼は都の外れに暮らす貧しい姉弟を救う。彼らに気をかける義明だが、女のもとに通っていると誤解した姫宮は知らぬ間に嫉妬している自分に気付き、自己嫌悪に陥る。自分の憑依する体として姫宮を狙う邪神、夜刀神の正体を夢見で知った姫宮。夜刀神はかつて嫉妬によって罪を犯し天界を追われた存在だったのだ。霊を見て病を得た女房を救うために後宮を訪れる姫宮と義明だったが、それは亜空に姫宮を誘いこむ夜刀神の罠であった。霊たちを黄泉の国に行かせない夜刀神の狙いは何か。そして亜空に閉じ込められた姫宮たちを待ち受けていたものは……。
 本巻では、少女から女性へと変化していく姫宮のジレンマと、その嫉妬心とリンクさせるようにして描かれる夜刀神の出自を中心として描かれる。とうとう物語が本題に入ってきたという感じになってきた。ここでは日本神話の再構築というアイデアも展開され、読み手をシリーズの核心に触れさせている。しかも、本巻のみの事件を解決するというこれまで同様の読み切り形式を崩さずにやっているわけで、ここらあたりのテクニックはシリーズの積み重ねからくる自信のようなものを感じさせる。作者の本シリーズのラストスパートに賭ける思いが伝わってきた。
 決して大風呂敷を広げることなく着実にシリーズの世界を広げてきた効果が、そろそろ出始めているように感じた。完結に向けてこの調子で一気に書き進めていってほしいものである。

(2001年5月25日読了)


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