「真夏のホーリーナイト」に続くシリーズ第2弾。
電脳トラブルの民間調査機関「ページ11」の一員へと勧誘されている浦島かえでだが、彼女はまだ入社する決心がつかないでいた。そんな中で「ページ11」のメンバーである小桜姫子が秘密で探っていたドラッグデータに関する大事件が起きる。そのデータをオートパイロットの旅客機に仕掛けたのはデジタルミュージシャンのジャン煙山。酩酊状態に陥った旅客機と、その乗員たち。そこには単身煙山に挑む姫子もいた。姫子たちを助けるために旅客機に乗り込むかえでとバンブー垣花。しかし酩酊状態の運転システムはドラッグデータに犯されたまま機能を回復しない。このままでは旅客機もろとも乗員たちの命が奪われてしまう。その時、かえでの耳に少女の声が聞こえてきた。それは、メインシステムをバックアップする緊急ナビシステム〈エンジェル〉の声だった。デジタル情報とシンクロできる能力を持ったかえでは、〈エンジェル〉とコンタクトを取ろうとする。かえでは旅客機とその乗員たちを救うことができるのか……。
コンピュータ社会の陥穽をハートウォーミングなタッチで描くこのシリーズだが、本巻では擬人化されたコンピュータシステムについて、その可能性と危険性を探る内容になっている。コンピュータに疑似人格を持たせるという描き方は、多くのSFでとられてはいるが、どうしても思考回路が人間そのものになってしまったり、疑似人格を持たせる必要性を欠いていたりしがちである。しかし、本書の場合は、コンピュータを作るのも使うのも人間なのだという出発点を見失うことなく、疑似人格コンピュータと人間の少女のコンタクトを描き出すことに成功している。
個人的な好みでいえば、もう少し人間に対してコンピュータがドライになってもよいのではないかと思う。しかし、例えば酩酊したコンピュータシステムの描き方ひとつとっても過不足なくその状態を描写しているところなどは、本書がただセンチメンタリズムだけの作品ではないことを示してもいるから、読後に感じられた感傷的な部分は作者の意図するところであると考えてよいだろう。
そういう意味では、SF初心者にもとっつきやすく、そして楽しめるシリーズになっている。難解な用語を用いずにこれだけの内容をするりと読み手に提示できる作者の技を堪能したい1冊。
(2001年5月25日読了)