「風花の序」に続くシリーズ第3巻。
父、杜生を破魔の弓で救った杜那だったが、自らは大怪我をしてしまう。一方、砌は町で出会った謎の青年にさらわれてしまい、囚われの身となる。青年はセイと名乗り、自分が魂だけの存在で入れ代わる器となる体を探しているのだと説明する。セイは砌の体を器として欲していたのだ。結界を張りその中で交通事故で死んだ少女と永遠に終わらぬ鬼ごっこをさせられる砌。疲労困憊したところを狙って体を譲ることを承諾させようというのがセイの狙いだった。行方不明になった砌を探す杜那と冬星だが、分厚い結界に阻まれる。そして、砌の祖母で巫女として強い能力を持つ鈴音がいよいよ登場し……。
本書では、『月の系譜』とさらにストーリーが重なってきて、登場人物も相互に影響しあうようになってくる。壮大な物語の世界が少しずつその姿を現そうとしているというところだろう。
その上で、砌や杜那らがまわりの人間と普通に話ができない悩みなどが描かれる。本書で興味深いのはこの点で、おそらくこれは作者自身の体験なのではないだろうかと思われる。つまり、同じ世界に住んでいるはずなのに違う世界を生きているというような、そういう体験を作者はしてきたのではないだろうか。在日朝鮮人三世であること、読書好きで作家になるほど小説を書きたいということ、いずれもごく普通の子どもたちとは違う世界ではなかっただろうか。本書を読み、そのあたりのメッセージが痛いほど強く伝わってきた。それを巫女の能力や陰陽師の能力を持った者という形で表現し、読者に違和感なく伝えられるところに作者の力量を感じさせられるのである。
(2001年7月7日読了)