読書感想文


モザイク I I I 少年たちの震える荒野
中井紀夫著
徳間デュアル文庫
2001年7月31日第1刷
定価533円

 「モザイクII 少年たちの震える荒野に続く完結篇。
 蓮沼無熱の拷問により自分の世界にこもってしまった少年、リュウ。彼の心を癒そうと懸命な唯花。リュウを守るために再び昔の仲間を集めて今度こそ自分たちのコミューンを作ろうとする大輔。リュウをカウンセリングすることによってM震を食い止めようとする医師、天野。そしてリュウに再度瀕死の恐怖を味わわせて破壊のエネルギーを解放させようとする無熱。リュウが初恋の少女との恋愛を成就させるという幻想の中に逃避した時、M震で破壊されたはずの東京の町が蘇り始めた……。
 物語はリュウの記憶をたどることによりM震の原因やその意味を探る形で進んでいく。前巻までの激しい戦いが嘘のように、リュウの内宇宙の描写が続く。超能力を持って生まれてしまった少年の苦悩を、その内面を追求するという方法で描いたという点で、本書はこれまでにもあった超能力者の苦悩というテーマを深めていったといえるだろう。また、ここで描かれるM震後の荒廃した世界は、現代人の抱える空疎な精神状況を示したものだと考えてよい。
 その意欲は高く評価したい。が、最初の2冊までの展開と最終巻の展開のギャップが激しいことや、無熱という存在がただ単にリュウの内面に立ちふさがる存在というだけの存在でしかなく舞台となった近未来の社会に実は特に影響を与えているわけではないことなど、まだバランスの悪いところが見られる。そういう意味では作者は決して完全復活したわけではないだろう。
 それでも作者が少しずつ書きたいテーマとストーリーをうまく噛み合わせられるようになってきているとは感じられる。今後の作者の動きには注目していいだろう。本シリーズが復活のきっかけになることと期待したい。

(2001年7月19日読了)


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