「パラサイト・ムーン 風見鳥の巣」の続刊。
〈迷宮神群〉の一つであるレブルバハトを研究する製薬会社社員の水本美春はそのレブルバハトを使って、かつて自分の父を犠牲にした対〈迷宮神群〉組織の「キャラバン」をつぶそうとする。しかし計画は未然に防がれ、美春は殺されてしまう。美春の妹、冬華は時代劇の脇役で人気を得た新人タレント。彼女は姉の真の死因を探ろうとする。しかし「キャラバン」の武闘派の中心である華ヶ瀬清元はレブルバハトに関わりがある冬華に刺客を放つ。ところがその刺客たちは次々と変死を遂げる。「冬華を守って」という美春の最後の依頼を受けた製薬会社の研究所長、真名井紳士は同じ組織に所属しながらも華ヶ瀬から冬華を守るために「キャラバン」の古老翁居夢路のもとに彼女を預けようとする。冬華をめぐる組織内部の対立、そしてレブルバハトにこめられた美春の思い。それらがからみあい、激しい戦いが始まろうとしていた。そして、冬華が見せられた〈迷宮神群〉の真実とは……。
前作とはうって変わってSF色の濃い作品となっている。まだ〈迷宮神群〉の正体そのものについては明らかにされるところまではいってはいないけれど、前巻で示されたような伝奇的なものではどうやらないようだ。本シリーズは〈迷宮神群〉という存在をめぐりそれに振り回される人間の愚かさを描いたものとなるようである。
本巻では作者のストーリーテリングの巧みさが十分に味わえる。主人公である冬華を常に危機的な状況に置きどうやってそこから脱出させるかという展開でストーリーを進めながら「組織」につきものの内部抗争や人間関係のあやがよくわかるようになっている。あとはシリーズの軸である〈迷宮神群〉にどれだけ説得力を持たせられるかというところが鍵となるだろう。まだその存在は抽象的でありいわくありげではあるがその性格ははっきりしていない。シリーズの成否はここにかかっている。
ところで前巻でも感じたのだが、丸顔で可愛い登場人物しか書けないイラストレーターの起用で本書はかなり損をしているように思われる。30代の男性が多数登場し、かなりイメージ的にもアダルトな雰囲気をもった作品とは相容れないように思う。私はなるべくストーリーとイラストは切り離して読むようにしてはいるのだが、この作者の作品は少女マンガ系の緻密なタッチの漫画家を起用した方がよりストーリーを際立たせるのではないかと思うのだ。150年も生きている古老の顔が子どもにヒゲを生やさせたようであるのはあまりといえばあまりである。
(2001年8月31日読了)