「牡丹の眠り姫」に続く、三部作の完結編。
狐精により過去の記憶を掘り起こされ自ら眠りについてしまった瑞香。彼女の魂は実は西王母の長女、華林公主が貸し与えたものであった。長い眠りから目覚めた華林であったが、瑞香が自ら起きる気持ちになるのを待って再びその魂を移しかえることにする。楊ゼンは再び人界に下り、狐精と戦う決意をする。一方、西王母の末娘太真は瑞香の眠りを覚まさせるために冥界に独断で旅立ち、瑞香の殺された家族の魂を人界に呼び寄せようとする。かくして狐精と瑞香=華林の最後の対決が始まる。
恋物語の成就で決着がつくと思い込んでいたが、それは誤りであった。それどころか、かなり派手なアクションをともなった展開で、外見のみにとらわれる愚かさと内面の美しさから発露する美徳との対決という形にもっていっている。勧善懲悪というパターンに陥ってしまうのは、仙人という清浄なるものを主人公においたこのシリーズの性格上やむを得ないところだろう。テーマを言葉で語り過ぎる饒舌さも気にはなる。しかし、ストーリーテリングのうまさはこれまでの作品よりも格段に進歩しており、さらにデビュー作以来同一の舞台を使って作品を書き続けている作者の物語世界を概括させるような内容になっているところに中華ファンタジーの書き手としての作者の今後を期待させるものになっている。
女性作家による中華ファンタジーは武侠小説の流れをくんだものが比較的多いけれど、作者の目指すものはどちらかというと純然たるファンタジーに恋愛をからませたものなのだろう。ただ本書では恋愛よりも戦いに主眼がおかれている点に作者の可能性を広げていく要素が見られると感じられた。そういう意味では本書を含む三部作は作者のターニング・ポイントとなる可能性があるのではないだろうか。
(2001年9月2日読了)