読書感想文


ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト
上遠野浩平著
メディアワークス電撃文庫
2001年9月25日第1刷
定価550円

 ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド」の続刊でシリーズ第10弾(11冊目)。
 ただなんとなく毎日を送っている結城玲治が出会った少女、濱田聖子は自転車のロックを石で壊して盗もうとしていた。玲治はスクーターのエンジンを直結で動かして聖子と一緒に彼女の元恋人から逃げ出す。そのスクーターには爆弾が仕掛けられていて、たまたま立ち寄ったドラッグストアを破壊してしまった。スクーターの持ち主である二人組の男から自動車を奪ってまた逃げた二人は、カーナビの画面に現れた包帯を巻いたイタチの画像〈スリム・シェイプ〉の指示を受け、なんとなく言われるがままに犯罪を重ねていく。彼らは男女ペアの犯罪者〈ホーリィ&ゴースト〉として警察から追われることになる。そんなだいそれたことになっているという自覚のないまま二人は〈スリム・シェイプ〉の最終目的である〈ロック・ボトム〉の略奪と消去を実行しようとする。二人を追う者、それを妨害するように現れるブギーポップ……。二人の行き着く先はどこなのか。
 いささか書き割りめいたできすぎた設定のもとにただなんとなくという法則で動く少年。こういうただなんとなくという受動的な若者の描写となると作者の独壇場という感じがする。生きていくことの意義や世界人類の平和なんて大上段にふりかざすのは作者のシャイな感性が許さないということなのだろう。世界を揺るがす大事を主人公たちは日常生活の延長のように行ってしまう。その行動様式こそ現代社会そのものというところなのかもしれない。そしてあまりにもあからさまに絵空事を強調した舞台設定や展開は、若者から見た大人社会を示しているかのようだ。舞台の虚構性を強調することにより主人公の抱えているとらえどころのない空虚さのリアリティを増していく。これは作者の作家としての技巧なのか、それとも意識せずに行っている天性のセンスなのか、どちらなのだろう。私は後者だとにらんでいるのだが。

(2001年9月20日読了)


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