「風神の門(上)」の続刊。
霧隠才蔵は家康の警護をする風魔忍者獅子王院と生死を賭けた戦いをし、なんとか勝利する。しかし、その間に家康は駿府を出立し大坂冬ノ陣に向けて戦力を整える。京に戻った才蔵は、佐助とともに大坂に集結する大名たちの陣を攪乱する。町にはやる今様から武士たちは才蔵のことを「影法師」と呼んで恐れるようになる。しかし、凡庸な首脳に率いられる大坂方は次第に敗色が濃くなり、才蔵は落城に備えてただ一人の女性を救うことを決める。戦乱の中で才蔵が選んだ道は……。
本書は才蔵という自由人の生き方を描くことに絞って、戦いというものの本質を探っている。作者は戦う者たちを「自分の生きたいように生きる」という視点で描く。それは兵士として戦場に赴いた作者が、国家や国家の大義のために死ぬことの虚しさを感じたからではないかと思われる。
才蔵が豊臣家のために生死を賭けて戦い、その末に得たものは一人の女性であるという点に注目したい。そこには人間が生死を賭けて戦うのは人間らしく生きるためなのだというメッセージがこめられている。
本書の小説としての弱点は、才蔵が命を賭けて恋をした女性たちが4名いるにも関わらずそのうちの2人と才蔵の関係をきっちりと精算しないままに1名だけに絞り込んでしまったことだ。これは、最初は才蔵という自由人の生き方を中心に描いているにも関わらず途中で物語が大河歴史小説の雰囲気に変質しかかってしまったことからくると思われる。そういう意味では本書は司馬遼太郎が娯楽時代小説家から本格的な歴史小説家になっていく過渡期の産物だといえるだろう。
(2001年9月22日読了)