読書感想文


暗黒太陽の目覚め 下
林譲治著
ハルキ文庫ヌーヴェルSFシリーズ
2001年9月18日第1刷
定価760円

 「暗黒太陽の目覚め 上」に続く完結編。
 宇宙都市オデッサの太陽が爆発することが予知され、代官の華衣は〈龍党〉と協力してオデッサ市民を救助することを決断する。しかし、筆頭与力のコーデリアは〈龍党〉に協力することを潔しとせず那國勘定奉行に連絡する。那國中枢部の秘密指令を受けたコーデリアは、〈龍党〉が使用している古代人の都市宇宙船に市民を移動させるという計画を阻止しようとする。都市宇宙船が動力として使用していたマイクロブラックホールがオデッサの太陽の中に入り爆発するという情報は果たして事実なのか。オデッサ市民の命を盾に、那國中枢部と〈龍党〉の緊迫した駆け引きが始まる。
 太陽の爆発、那國人類の発生の秘密などといったハードSFの設定を踏まえた上で、硬直した組織に所属する人間の愚昧さや人類にとってもっとも重要なことは何かといった問いかけがなされている。ハードSFと戦略小説の面白さを融合させることに作者は成功したといえる。特に本巻では「正義」のために命令を守り疑うことを知らぬコーデリアという人物の行動を徹底的に追うことにより、作者の意図はより明確になったのではないだろうか。
 ただ、どうしてもハードSFとしての整合性を追求するために説明的な描写にかなりのページが割かれ、ストーリーの流れが時おり分断されてしまっている。その点でハードSFを読みなれていない人には取っつきにくい部分もあるかもしれない。そのあたりの処理がもう少しスマートにできていればなおよかったのだけれども。
 この宇宙史は今後も続くことが予想されるが、次の作品ではさらにその世界の奥行きが増すことが期待される。

(2001年9月29日読了)


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