読書感想文


櫻の系譜 落花の急
金蓮花著
集英社コバルト文庫
2001年10月10日第1刷
定価438円

 「沈黙の破」に続くシリーズ第4巻。
 砌は渋谷駅前を襲った陥没事故を最低限に食い止めるため力をふりしぼり、昏睡状態に陥っている。杜那は水族館の水槽に現れた霊体を封じるために田所とともにそこに赴くが、尋常でない力により水槽のガラスが破られ、杜那をかばった田所は瀕死の重傷を追う。霊を封じた杜那は、鈴音から〈常世姫〉という敵の存在を知らされる。杜那はまだ見ぬ敵と戦う決心をする。浄霊の儀式を行った際、離魂状態に陥った杜那が夢幻の世界で出会った少年の正体は……。そして儀式の直後に杜那を襲った運命とは……。
 主人公が自分の存在意義について自覚するのが本書のテーマだろう。それは青年が社会に出て否応なく現実に飲み込まれていく様にも似ている。もっとも、この物語の場合はその現実とはこの世にあらざるものとの戦いという形で表されているのだが。
 そしてまた本書は『月の系譜』の主人公である〈常世姫〉こと泉とは反対の立場から同じ世界が描かれたものであることを明らかにしている。弁証法的にいうと「正・反・合」の「反」の段階というべきだろうか。前のシリーズで読み手に共感を与えさせていた主人公がこのシリーズでは「悪」として登場する。ここらあたりの仕掛け方は心憎いばかり。
 杜那が泉と直接対決するであろう今後の展開がますます楽しみだ。

(2001年10月2日読了)


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