読書感想文


星間群龍伝 V 見はてぬ夢
羅門祐人著
エンターブレイン A−NOVELS
2001年10月10日第1刷
定価880円

 「星間群龍伝 IV 目覚めの時」の続刊。シリーズ第2部の完結編である。
 原始共産制をとる惑星国家軍、聖蓮が統治する共和連邦、共和連邦から脱出したレオンたちの作った新自由連合の三ヶ国がにらみ合う状況となった星間国家の勢力争いは、共和連邦が新自由連合の人質である皇太后里亜の裁判を発表した時点で新たな局面を迎える。カミーラに記憶されている情報をホストコンピュータに移植してネットワークを支配し、人類の文化圏をひとつにまとめあげようとする聖蓮。収容所からの脱出を計画するシオン。里亜救出を企てるレオンたち。彼らは今は亡き策士プラトンが描いた図に沿って動いていく。カミーラの記憶がホストコンピュータに移植された時、プラトンの計画は完成する。全ての運命はどのように収束していくのか……。
 人類の種としての限界を人工的に作り出されたアンドロイドやクローンの働きによって示した上で、なおかつその可能性を求めようとする壮大な試みも、本書で一段落。愛を知らぬはずの者が愛を知った時の心のひだなど細やかな描写を積み重ねながらこれだけの世界を構築、未来史を展開する作者の力量が十分に発揮されている。
 実際、単なるスペースオペラなら戦略や戦術レベルだけで物語が進むわけだが、作者の意図が「文明」を描き出すことにあるだけに、派手な戦闘シーンを求めている読者には物足りなく感じられる部分もあるだろう。そして登場する人物もコンプレックスに満ち満ちた者ばかりで、キャラクターのかっこよさを求めている読者にも不満は残るだろう。しかし、それ以上にSFとして人類や文明を描いた面白さがあり、本シリーズの価値はそこにあるのだ。
 第3部ではさらにSFらしさが前面に出ることが期待される。

(2001年9月2日読了)


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