読書感想文


ザリガニマン
北野勇作著
徳間デュアル文庫
2001年10月31日第1刷
定価476円

 「かめくん」の姉妹編の登場。
 有限会社ムゲンテックの社員、トーノヒトシは「人類の敵」を開発していた。それは映画に使う「人類の敵」であるのだというが、本当の「人類の敵」かもしれない。トーノヒトシはオーカワ主任のもとでザリガニ型の「人類の敵」を作っている。同僚のナカツジミキに勧められてトーノヒトシはザリガニ型の「人類の敵」が活躍する映画『ザリガニマン』の台本を書き始める。ところが、新作映画の「人類の敵」を否定するオタク集団のテロにより会社は爆破されてしまう。ザリガニ型の「人類の敵」の脳と自分の脳を直結して同調していたトーノヒトシはザリガニと融合してザリガニマンになってしまう。正義の味方となったトーノヒトシ=ザリガニマンは敵の亀と戦うのだ。ザリガニマンは何のために生まれ、どこへ行くのだろうか。
 作者は現実と空想の世界の間に境界線を設けずないまぜになった世界を構築し、その不安定な世界になんとなく漂う虚無感を与える。なんとなく仕事をし誰かに自分のやりたいことを示され気がついたら自分も世界も全く違うものになってしまっている。私もまた気がついたらこの作品世界に幻惑され不安定な状況にもてあそばれていた。
 本書はヒーローもののパロディではない。「かめくん」以上に観念的な物語であり、現実というものの危うさをSFという形で示した傑作である。それ以上、どのように本書を表現していいのか、その言葉を私は持てない。傑作だ傑作だとうわごとのように繰り返すのみである。

(2001年10月15日読了)


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