読書感想文


陰陽寮外伝之一 晴明百物語
富樫倫太郎著
トクマノベルズ
2001年10月31日第1刷
定価1000円

 「陰陽寮  伍 晴明復活篇 下」に続くシリーズ第6作。
 陰陽師、滋丘貞主の物語を軸に彼にまつわる短編をオムニバスで描いたもの。
 年老いた陰陽師、春苑信行の前に現れた大犬丸と名乗る若者は、信行の孫、繁樹に昔語りをする。仙人を目指して行方不明になった貞主の運命、晴明とその弟子寿宝が出会った謎の女性の哀しい物語。そこから大犬丸の正体が貞主と判明してしまう。かつての親友とその妻であるわが妹に対してささやかな贈り物をした貞主は、竜眼石と天日槍の行方を求めて源平が決着をつけようとしている壇の浦に赴く。貞主の真の姿が明かされる時がきた。
 各短編についてはできにばらつきがあるが、正伝を補完するエピソードとしては過不足はない。というよりも正伝の展開に大きな影響を与えるエピソードもあり、外伝という位置づけでいいのかという感じがしたくらいである。
 ただ、オムニバスとして見た場合、構成がなにかおかしいところがある。貞主の昔語りからはじまりながら途中で貞主が主人公になった本格的な中編に変わっていくのである。それならば昔語りという形を取らず貞主の行動をストーリー展開にそって書き上げた方がよかったのではないだろうか。
 正伝に戻った時、この外伝で明らかにされたことなどがどのように影響してくるのかに注目したい。

(2001年10月21日読了)


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