「さすらいエマノン」に続くシリーズ第3冊。書下ろし中編である。
ある世代のエマノンただ一人だけに生まれた双児の兄、拓麻。彼は3歳で施設に預けられたあと、荏口家の養子になり恵まれた少年時代を過ごす。彼にはちょっとした予知能力が備わっていて、自分が大切にしている人物に生命の危機が迫ることが事前にわかるのである。彼はまた記憶力に優れていて、幼い頃に別れた妹の手の温もりを記憶していた。一切女性には興味を示さない彼も、その手の温もりだけは忘れられず、同じ感触を探し求めていた。拓麻は、彼女を探すための調査費用を株の売買で作る。証券会社の女性社員が彼そっくりの女性を見かけたという情報をもとに、彼だけが感知している光点の助けもあって、とうとう妹エマノンと再会する。自分が施設に入れられた経緯を知った彼は、エマノンと訣別し自暴自棄な生活を送るが、エマノンが窮地に陥った時、自分が何のために生まれてきたかを知る。
主人公の拓麻がただ一つの目的のためにだけ生まれてきたという設定は、かなり残酷なものである。その目的を知った時に彼は生き生きと行動しだすのだが、それが私には納得できない。自分の生が自分のためにあるのではなく、妹のためだけにあるというということを虚しく感じたりはしないのだろうか、と思う。そこらあたりの説得力が十分ではない。
作者はあとがきで「『A.I.』にずっこけた人も必ず泣かす」が今回のエマノンのスローガンだと書いているが、主人公が普通の感性の人物ではないので感情移入しにくく、これでは泣けない。
やはりエマノンは短編の方がよいのではないかと感じた。
(2001年11月3日読了)