読書感想文


ウィーン薔薇の騎士物語 5 幸福の未亡人
高野史緒著
中央公論新社 C★NOVELESファンタジア
2001年9月25日第1刷
定価900円

 「ウィーン薔薇の騎士物語 4 奏楽の妖精の続刊。シリーズ完結篇である。
 オペレッタ「メリー・ウィドウ」の本歌取り的な一篇。
 フランツがウィーンにやってきて1年。少しずつ一人前になりつつあるが、まだ子どもっぽさを残している彼の前に、バルカン半島の小国ポンテヴェドロの外交官ダニーロが現れる。彼はポンテヴェドロ大使館が行う夜会にジルバーマン楽団が出演するよう依頼してくる。そこにはポンテヴェドロ王国の財政を左右するほどの遺産を受け継いだ未亡人、ハンナが出席することで話題をまいていた。彼女と再婚すれば王国の政治にも介入できるとあって、求婚者はあとをたたない。やはり夜会での仕事を依頼された歌姫クリスタはハンナと一度で友人となり、彼女が本当に愛している人との仲介をしようと計画をたてる。フランツもまたその計画に巻き込まれていく。「薔薇の騎士四重奏団」のメンバーアレクシスとポンテヴェドロ大使夫人の恋愛もからみ、経過は思うような展開を見せない。しかも、ダニーロとハンナは互いに好きあっていながら正直に自分の気持ちを相手に伝えることができない。フランツとクリスタは愛しあう二人を結びつけることができるのだろうか。
 タイトル通り、ウィーンを舞台にした物語でウィンナ・オペレッタを題材にしたエピソードでシリーズを締めくくるとはなかなか味なことをやるなあという感じ。このシリーズはつまり作者の音楽への照らいのないラヴ・レターなのだろうなと思う。特に本書は音楽にのって複数の恋人たちの恋愛がもつれにもつれるという構成をとっており、作者なりにオペレッタを活字で書こうとしたという感じだ。一見たわいのない恋物語のように見せかけて、実はクラシックファンが読むとその凝った作りに感心してしまうという仕掛けになっているのだ。
 この後、舞台は政治と戦争の季節に入っていく。その直前の爛熟した文化を少年の成長に仮託して描き上げた小味な秀作。続編が書かれるとすれば、それは今度は大河ドラマ風な味わいになっていくことだろう。それもまた読んでみたいものである。

(2001年11月15日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る