「大神亮平奇象観測ファイル 憑融」に続くシリーズ第2巻。
瀬戸内海の小島に調査にきた民俗学者、大神亮平。この島でかつて山の上の民と下の民の交流を研究していた学者が残した土偶を返しにきたのである。過疎の島の小学校長の息子、繁久は幼いころの病気がもとで時折記憶が欠落するため、中学校を卒業した後も島に留まり学校の雑用をしていた。しかし、繁久は亮平の持ってきた土偶を手にし、さらに山の上の民の墓となっていたという洞窟に入ったとき、欠落した記憶を探りたいという気持ちが強くなる。島をでて役場に行き戸籍を調べた彼は、自分の実の両親が現在の母親とは全くの別人であることを知る。そして、毎夜夢に見ていた風景が自分の過去にかかわるものであることに気づいたとき、彼のまわりで特異な現象が起きはじめる。彼の過去に隠された秘密とは。そして彼が過去を思い出すことを阻止しようとする島民たちの思惑とは……。
閉鎖的な島を舞台にとった伝奇ミステリー。こういった舞台の場合、島の習俗に独創性がないと伝奇小説としては少し苦しくなる。本書の場合、強烈な風習などではなく、過去におこなわれていて現在は失われてしまった言い伝えがもととなっているということで、そのへんは少々インパクトに欠ける。
しかし、聖から穢への転換という歴史学的なアイデアがストーリーの芯になっているあたりが作者の目のつけどころのよさではないかと思う。そこに「古事記」の挿話を少しからめている。ここをもっと強調してもよかったようにも思う。
基本的には記憶を失った青年が自分とは何者であるのかを探すというのがテーマとなっている。よくあるテーマだけに、本書でなければというアピールが弱いのが気になった。狂言回しである大神亮平にもっとキャラクターの強さがあれはよいのだが。
(2001年12月1日読了)