読書感想文


パラサイトムーン I I I 百年画廊
渡瀬草一郎著
メディアワークス電撃文庫
2001年11月25日第1刷
定価570円

 「パラサイト・ムーン II 鼠達の狂宴」の続刊。
 百年前に亡くなった天才画家グランレイスが残した絵に封じ込められた〈迷宮神群〉オルタフをめぐり、変身能力のある満月のフェルディナンはその力を解放すべく希崎心也の力を利用しようとする。心也はグレイランスの力を受け継いだただ一人の存在で、グレイランスが作り上げた異界への入り口〈画廊〉を塗り替える力を持っているのだ。露草弓を人質にとったフェルディナンは心也をだまし、オルタフを解放するよう彼を導いていく。一方、レブルバハト事件の余塵さめやらぬ〈キャラバン〉では、事件で心に傷を受けた水本冬華とともに翁居夢路が行方不明の心也のいどころを探していた。解放されかけたオルタフの力によって増幅された冬華の悲しみの心があたりにいる人々に影響を与えていく。グレイランスの秘密とはいったいなにか。フェルディナンのもくろみは成功するのか。そして心也は弓をぶじ助け出すことができるのか。
 第1巻のできごとと第2巻のできごとを〈迷宮神群〉という存在で結びつけていく役割を本巻は果たしている。心也という少年とグレイランスという画家に共通する「純粋な愛情」というものを描くことにより、人を愛するというものの強さを描こうとしている。
 〈迷宮神群〉という存在の定義がいまだあいまいにしか提出されていないまま物語が進んでいくところに若干のもどかしさを感じる。作者は自分なりにオリジナルの神話を創造しようとしているのだろう。その意図はわかるけれど、舞台を現代社会にとり、そこで〈神〉を異能をもった怪物として描くのであれば、現代社会に残っている事実にうまくリンクさせていかないと、オリジナルの〈神話〉に「らしさ」がでてこないように思う。
 このままでは作者の意図に反して単なる怪物とそれを狩る者たちの箱庭的な物語になるのではないかと危惧している。もう少し伝奇色を濃くさせてもよいのではないだろうか。その方が物語に奥行きが出るように思うのだが。

(2001年12月11日読了)


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