読書感想文


櫻の系譜 薄氷の花伝
金蓮花著
集英社コバルト文庫
2001年10月10日第1刷
定価438円

 「落花の急」に続くシリーズ第5巻。
 杜那が憧れる久木佐保子の放った矢によって父の杜生が傷つき、佐保子は行方をくらます。その直後、渋谷では見えない力が人々を殺戮しはじめていた。めざめた砌とともに、杜那は渋谷へ向かう。そこで彼らが見たものは、巨大な十二神将の姿であった。神将たちは矢を放ち、町を破壊していく。その肩に座っているのは行方不明の佐保子。鬼である暁はその正体を喝破する。そして、ついに〈常世姫〉泉が彼らの前にあらわれる。櫻の巫女と常世姫の戦いの火蓋は切って落とされた。
 少年が若くして死んだ姉の面影を追う短編「御伽噺」を併録。
 夜の渋谷を破壊する十二神将が現れた時には、正直なところ驚いた。少年たちの繊細な心にあらわれる葛藤が中心となってきたストーリー展開にはそぐわないような気がしたからだ。もっとも、これは常世姫が破壊の象徴であることを示したものとして描かれているわけで、それだけ作者がこの物語を破壊と守護の激しい戦いであるととらえているということなのだろう。
 本書に至って、泉という存在が男性的なものを象徴しているように感じさせるようになってきた。次代の〈櫻の巫女〉である砌が男性でありながら「姫」とあだ名されていることなどから、櫻の巫女は女性的なもの、あるいは母性を象徴していると考えられる。私の受けた印象では、本書は肉体的な性と精神的な性の不一致を描いたもののようである。そこらあたりが今後の展開を占う鍵となるように思うのだが、どうだろうか。

(2001年12月21日読了)


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