「陰陽魔界伝」に続く第2巻。
長屋王の怨霊に憑かれていた玄坊※は、聖武天皇の信頼が行基に移ったことがきっかけで呪詛を仕掛けるようになる。聖武天皇は長屋王の祟りに悩み遷都をくりかえすが、そのために大仏建立が頓挫しかねない状態になる。光明皇后に近づいて天下を握った藤原仲麻呂(後に恵美押勝と改名)は、長屋王の祟りによって動かされる傀儡でしかなかった。吉備真備は押勝に疎んじられ遣唐使として日本を離れることになる。唐で阿部仲麿と再開した真備は、玄宗皇帝が楊貴妃に夢中になり国を傾けようとしていることを知る。楊貴妃には魔神の力がはたらいていて、その力は日本にまでおよび、長屋王を支配するのもその魔神のせいだという。帰国した真備は、長屋王の生まれ変わりに遭遇する。それは道鏡と名乗る若い僧であった。
大河伝奇小説、待望の続巻である。本巻では吉備真備を中心に、唐と日本の国難が並行して描かれる。そして、真の敵が何者かが明かされる。新たな難敵道鏡の出現であるが、ここで著者は歴史を説明しているような記述でいろいろと伏線をはっている。だが、大仏開眼までにはまだ間があり、奈良時代を舞台にした物語はまだまだ続きそうだ。
ここで描かれるのは怨霊にあやつられる人間の心の弱さと哀れさであり、その原因となる欲望という業の深さである。史実にこだわりながら、その裏にある歴史の謎を解きほぐすという作業に、その業の深さは不可欠といっていいだろう。
ただ、物足りないのは善玉と悪玉がはっきりしすぎているところで、これだけの大河長篇ならば、そのような単純な図式で登場人物を描くと物語そのものに深みが感じられず、せっかくの豊富な歴史に関する知識やそれを生かしたアイデアがあってもそれが十分に生かされない恐れがあるのだ。
もっとも、作者は歴史に関する描写とアイデアを主体としてこの物語を構築しているのだろうから、複雑な心理描写は重視していないのかもしれない。それが見えるだけに、なおさら単純な勧善懲悪もので終わらせてほしくないのである。
※正しくは「日」と「方」を組み合わせて「ボウ」と読む漢字だが辞書にないので「坊」で代用しました。
(2001年12月24日読了)