読書感想文


月と闇の戦記 一
退魔師はがけっぷち
森岡浩之著
角川スニーカー文庫
2001年12月1日第1刷
定価457円

 「月と炎の戦記」に登場する登場人物が現代の日本で活躍する新シリーズの開幕。
 菊名隆生は幽霊などを退治する退魔師である。彼はこの世にあらざるものに見たり関わったりする力を持っているのだ。ただし、彼のやり方はお札をはったり呪文を唱えたりするものではない。幽霊に対し説得を試み、それでも立ち去ってもらえない場合は力づくで追い出すというものだ。しかも幽霊などの姿は依頼者には見えないので料金を払ってもらえなかったりする。だから彼の財布はいつもからっけつだ。彼に舞いこんだ依頼は、高級アパートの除霊。そこの住人は現在二人だけ。伊勢楓という女の子とその兄滋也、そしてツユネブリというおかしなウサギ。この兄妹には幽霊の姿が見えるらしい。なんとか除霊に成功した隆生はこのアパートにすむことになる。楓は、何者かに命をねらわれている村西由宇という少女を遊園地で助ける。彼女をねらう者たちは特殊なフィールドを形成し空間をゆがめる技を用いる。由宇の父親が知った秘密をめぐり、楓たちと謎の暗殺者の戦いがはじまる……。
 キャラクターの立て方、ストーリーの運び、すべてにおいてうまさを感じるのである。本書はまず登場人物紹介みたいな形で開始されるのだが、それはちゃんとストーリー展開にそって読者にあきらかになるようにされていて、説明臭さを感じさせない。いや、小説というものはそうであるべきなのだが、特にヤングアダルト小説の場合、ここらあたりがむやみに説明的になってしまいがちなのだ。作家の力量が問われる部分といっていいだろう。
 物語ははじまったばかりだが、軽いタッチでありながら一本芯の通ったストーリーが期待できる。楽しみなシリーズの開始である。

(2002年1月2日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る