読書感想文


姫神様に願いを 〜秘恋夏峡〜
藤原眞莉著
集英社コバルト文庫
2002年1月10日第1刷
定価476円

 「姫神様に願いを 〜月の碧き耀夜 後編〜に続くシリーズ第12弾。
 吉野山中で修行しているカイの前に現れたのは長尾景虎(後の上杉謙信)であった。9年ぶりの最下位である。越後の守護代を継いだはずの景虎は、出家の夢を捨て切れず国許から出奔してきたのであった。そして、彼を探しにやってきたのは実母、虎御前。テンの眷属であるマナは吉野山中でその本性である木曽義高と変じ、その仇である源義経の霊を滅ぼそうと暴発し出す。カイはそれをくいとめようとするが……。さらに、カイの前で景虎の出生の秘密があきらかにされる……。
 上杉謙信がなぜ生涯妻帯しようとしなかったかという疑問に答える形でその出生の秘密を描く一方、木曽義高と源義経の因縁物語も同時に進めていく。無関係である二つの物語を一つによりあわせていくストーリー展開はみごと。ただ、その分テーマが散漫になるきらいもあり、ちょっと評価が難しいところではある。
 はっきりといえることは、そういった無関係な二つの物語を一つの話としてまとめあげるだけの力量が作者に備わりつつあるということで、本書はその成長過程にあるいわば習作的な意義をもっていると思われる。将来、このテーマを散漫にならずに書けるようになった時、作者は作家として完成の域に到達したということになるだろう。
 作者はまだ若い。若い作家が難しいテーマに挑戦していく姿勢は好ましく感じられる。試行錯誤を重ねながら、少しずつ作者が成長していく姿を追う楽しみが本書にはある。

(2002年1月5日読了)


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