読書感想文


弥勒戦争
山田正紀著
ハヤカワ文庫JA
1976年12月15日第1刷
1981年11月15日第6刷
定価300円

 結城弦は、裏小乗の独覚として生まれ育った。彼は超能力を持ちながらもその力を使わず自ら滅びの道を選ぶように宿命づけられている。しかし、終戦直後の日本でGHQと結びつきながら勢力をのばしている独覚の存在を知った長老、薬草寺の指令により、歴史に介入しなければならなくなる。独覚の仲間には小田切誠、古在昇一、蓮見藍がいるが、かれらはそれぞれが独自の道をとることになる。歴史を動かそうとしている独覚は、実は人類を滅ぼすだけの力を有する弥勒であった。弥勒に薬草寺を殺された結城は、復讐の念もあり、たとえ単独でも弥勒と戦うことを決意する。マッカーサーをあやつり朝鮮戦争を拡大しようとする弥勒に対し、結城は真っ向から対決していく。
 長篇第3作となった本書でも、作者は人類の力では変えることのできない巨大な存在に個人が戦いを挑むというテーマを貫く。本書では裏小乗、独覚、弥勒という伝奇的な素材を駆使し、終戦直後の裏面史をからめるという舞台設定で息をもつがせぬエンターテインメントSFの世界をくりひろげている。それこそ読みはじめたら一気に読まずにはいられない。ストーリーの運びがうまいのだ。
 同じテーマであっても、設定やアイデアなどデビュー長篇とはかなり違うアプローチをしている。そしてそれが成功しているのだからその力量には舌をまく。20代前半でこれだけのものを書いているということに驚きすら感じる。
 本書はハルキ文庫から再刊されているので、未読の方はぜひお読みいただきたい。本書もまた傑作であることはいうまでもない。「神狩り」よりも全体にこなれていて読みやすいので、SFは苦手という方でもまちがいなく楽しめる傑作である。

(2002年1月10日読了)


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