「神獣聖戦 I
〈幻想の誕生〉」の続巻。5編の連作短編からなる。
ケーキのデザインをしている女性、関口真理は、鎌倉で庭師の牧村孝二に出会い、恋に落ちる。彼は非対称航行を可能にするホルモンを脳内に分泌する初めての人類であり、真理は彼と出会うことにより、〈鏡人=狂人〉と〈悪魔憑き〉の戦いを見届けるよう運命づけられることになる。彼女は時空を越えて放浪し、江戸時代の蝦夷地で仏師円空と出会い、時空を越えた戦いを円空に見せる。人類は〈鏡人=狂人〉と〈悪魔憑き〉の戦いを調停する役割を負わされるようになるが、実際は無力な存在でしかない。自殺を試みる若者たちが、受験に疲れた青年が、未来の戦いに関わらされる。戦いは果てしなく続く。そこにあらわれる真実とは……。
本書では第1巻に登場した人物が再度登場し、新たな物語がつむぎ出される。このことにより、未来史としての輪郭がはっきりし、シリーズの姿が浮かび上がってくる。第1巻ではとっつきにくかった部分が、霧がはれるようにわかってくるのだ。そういう意味では、この連作の仕掛けがあきらかになる巻といえる。
作者は精神病理や心理学を駆使して、内宇宙と外宇宙をみごとに関連づける。人が認知できないものと認知できるものの枠組みがあきらかにされ、識域下に秘められている宇宙が現実の宇宙空間に押し広げられる。
ここで描かれるのは宇宙という観念そのものなのである。
本書も現在では絶版だが、「e−NOVELS」のサイトからダウンロードできる。とにかくだまされたと思って読んでみてほしい。
(2002年1月14日読了)