「神獣聖戦 II
〈時間牢に繋がれて〉」の続巻。4編の連作短編からなり、連作シリーズとしては最終巻になる。
関口真理は恋人牧村孝二を取り戻すために、ソ連の元スパイ、アルバキン、そして勢子規子とともに彼を軟禁している富豪東田の屋敷に侵入する。虚空間では人類が滅びの道を歩もうとし、〈鏡人=狂人〉と〈悪魔憑き〉が戦う空間の境界にたどりついた過去の人間は、幻想生命体の生み出す幻想にからめとられる。そして、ここまで綴られてきた物語は一人の女性のモノローグとともに完結する。
最終話にいたって、この物語はメタフィクションの様相を示す。しかし、それがメタフィクションであるのか内宇宙の物語なのか、あるいは外宇宙の実相なのか、真実は読者の判断にゆだねられる形になる。
このシリーズで作者は宇宙、あるいは世界というものを哲学的な概念で表現しているように思われる。が、背面世界、非対称航行、〈鏡人=狂人〉、〈悪魔憑き〉などのアイデアは、物理法則をこえる新しい概念として提示されているので、科学的な発想から導かれる純SFとも読める。つまり、「想像できないことを想像する」ということへの総合的な解答を提示したものと思われる。ここでは読者の想像力が試されるのである。
本シリーズは作者のSF観をつきつめたものではないかと思うのだ。観念的なものとエンターテインメントの両立という、途方もないことを試みる作者の意欲が感じられる。それは必ずしも山田SFの集大成という形にまとまったとはいえないかもしれないが、それでもSFというものの面白さのエッセンスは提示されているのである。
本書も現在では絶版だが、「e−NOVELS」のサイトからダウンロードできる。続く長篇『魔術師』の復刊も望みたいところである。
(2002年1月17日読了)