「風の海
迷宮の岸 上」の続刊で、通巻第4巻目。
戴国の国王を決めるべく蓬山を訪れる戴国民と会う泰麒であったが、彼は王たるべき人物に出会った時に得るといわれる天啓を感じることがなかった。王の候補としてふさわしい人物である驍宗に出会い、心ひかれるものを感じた泰麒は彼を王にしたいと強く願う。しかし、天啓は訪れない。天啓がないからと帰国しようとする驍宗に対し、泰麒は天啓があったと偽り彼の前にひざまずく。戴国にふさわしい王が決まったと喜ぶ李斎たちを前に、偽りの選択をした泰麒の心はしめつけられる。天啓のないままに王を選んだ泰麒に天帝の罰は下るのか……。
主人公は子どもである。その子どもが一つの国を左右する決断を迫られるという点に本書のポイントがあると思う。ひとつは、子どもが自分の経験不足からくるコンプレックスを抱いているという心の動きを克明に描くことによりドラマを作っている点、そしもうひとつは、、子どもであるからこそ曇りのない目で物事を見られるという点。
ここで描かれる子どもは、純粋で聡明な子どもである。しかし、私はいかに素直な子どもであっても自分の身を守ることをまず最初に考えるものだというように常に感じているし、泰麒のような子どもは非常に珍しいものだと感じさえした。
子どもというものの純粋さに希望をもつ人にとっては、本書は心をゆすらせるだけのものなのかもしれない。しかし、純粋であるが故に子どもは残酷なものなのだと思うものにとっては、本書で描かれる子ども像がきれいごとに写るのではないだろうか。私の場合は後者に属する。物語の展開などにはうまさを感じたものの、その点で私には素直に感情移入しにくいものとなったのである。
(2002年1月22日読了)