「風の海
迷宮の岸 下」に続くシリーズ第3作で、通巻第5巻目。
雁国王、尚隆は、戦国時代の蓬莱で瀬戸内海に小さな勢力をもつ海賊の後継者であったが、一族が滅亡する折に延麒の六太に見い出されて雁国におもむいたという経歴をもつ。その延麒である六太もまた蓬莱で産まれた者であった。政治を配下にまかせて城下を遊び歩く尚隆に対する評価は低い。六太は、妖魔に育てられた少年、更夜を助けたことがあったが、その更夜と再会したものの、実は更夜は尚隆を倒して政権を手にいれようとする元州の卿伯、斡由の配下であり、六太は人質にとられてしまう。民のために立ち上がったはずの斡由だが、六太は次第にその本性を知りはじめる。そして、斡由の思惑とは違い、尚隆の召集した王軍に民衆が集まる。焦った斡由と尚隆の決戦の時が近づいていた……。
第1作から活躍する尚隆と六太のコンビを主役にすえたエピソード。尚隆は典型的なアンチヒーローとして描かれる。水戸黄門のように市井にまじわり、暗愚なふりをしながらいざという時にはその実力を発揮する。仇役の斡由はこれもまた典型的な偽善者として描かれる。したがって、物語の興味はどのように斡由の真の姿があらわになり、それに対して尚隆がどういった形でその実力を発揮するのかという点にしぼられる。
そういう意味では安心して物語世界にひたれる作品だといえる。展開の運び方や、二人が出ったころの逸話の挿入の仕方など、作者のストーリーテラーとしての実力を感じさせる。反面、登場人物が多い割には物語がすっきりしすぎているところがあり、もう少し混沌としている方が面白かったかもしれない。ここらあたりは評価が難しいところである。
主要登場人物の背景を描いた外伝的エピソードであるから、これくらいすっきりしていてもよいのかもしれないが。正直なところ私としては、もう一歩踏み込み権力者の業の深さを描いたものを読みたかった。
(2002年1月24日読了)