「東の海神
西の滄海」に続くシリーズ第4作で、通巻第6巻目。
慶国の王、陽子は風習もしきたりもわからぬまま王位につき、官僚の言いなりになる自分を歯がゆく思う。芳国の公主、祥瓊は苛酷な法で国民を苦しめていた父王が家臣に殺され、その地位を奪われるという運命を呪っていた。才国には蓬莱から流されてきて仙のもとで修行するがよそものである自分の辛さをわかってくれないと苦しむ少女、鈴がいた。陽子は身分をかくして市井に出、里家で老人遠甫の教えを受けながら民の実情を知ろうとする。祥瓊は恭国に流されたのち、恭王の財宝を盗んで逃亡、同じ年頃でありながら王位についてぬくぬくと暮らしているであろう陽子を襲おうと慶国を目指す。鈴は自分と同じく蓬莱からきたという陽子なら辛さを分かち合ってくれるだろうと慶国に向かう。出自も性格も違う3人の少女をめぐり、運命の輪が動き始めた。
現在の自分は本来の自分ではないとかたくなに信じる少女2人と、本来の自分に欠けているものを埋めようとする少女を対比させることにより、人の生き方とは何かを探る物語。シリーズ全体の主役というべき陽子が主人公だというだけではなく、少女を主体として描かれた物語である方が、ストーリー展開が生き生きとしているように感じられる。男性を描く時は、比較的典型的な人物になりがちなのだが、女性の場合は生身の人間という感じがするのだ。そういう意味では、本書は作者らしさが出る舞台設定というべきかもしれない。
上巻である本書ではわがままな少女たちの欠点が目立つような展開である。どのような形で少女たちを成長させていくのか、下巻の展開が楽しみである。
(2002年1月25日読了)