読書感想文


風の万里 黎明の空 下
十二国記
小野不由美著
講談社X文庫ホワイトハート
1994年9月5日第1刷
1994年10月14日第3刷
定価602円

 「風の万里 黎明の空 上」の続巻で、通巻第7巻目。
 慶国の王、陽子は和州で官吏が暴政をしいていることを知る。そして、その背景に自分が言いなりになっていた重臣がいることも。鈴は旅の途中で知り合った少年が和州の官吏によって車にひき殺されたことをきっかけに、自分よりも不幸な身の上の者が数多くいることを実感し、抵抗組織の仲間に加わる。芳国の元公主、祥瓊は、旅の道連れとなった楽俊から陽子の苦悩を聞き、自分が父王の圧政を止めることができなかった責任を理解する。そしやはり和州で抵抗組織に加わる。身分を隠していた陽子は抵抗組織の決起に協力することにする。それは、自分の出した指令が和州に届く前に重臣によって握りつぶされてしまったことに対してどのように対処すればよいか考え抜いた末のことであった。そして、決起を機会に3人の少女は出会い、それぞれの経験を語り合い、自分たちにできることは何かを考え始める。
 本書は、少女たちの成長物語である。自分本位に考えがちな思春期の少女が社会というものの現実にぶちあたり、ものの見方を広げていく過程を綴ったものなのだ。少女たちの描写が生き生きとしているが故に、その葛藤や成長が鮮やかに読み手に伝わってくる。説教臭さがないわけではないが、ストーリー展開にそって現れていくために、それが鼻につくこともない。第1作である「月の影 影の海」と同じテーマをさらに深めていったものと考えていいだろう。
 そういう点から見て、本書はシリーズの中核をなす作品ということになるだろう。そして、作者の意図が最もいい形で伝わってくる作品であるともいえるだろう。

(2002年1月26日読了)


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