読書感想文


黄昏の岸 暁の天 下
十二国記
小野不由美著
講談社X文庫ホワイトハート
2001年5月15日第1刷
定価530円

 「黄昏の岸 暁の天 上」の続巻で、通巻第10巻目。
 六太たちの捜索により、なんとか泰麒は発見される。しかし、彼は麒麟の角を失い戴国の記憶もなくしていた。陽子は黄海の西王母に直接願い出て泰麒を保護する。驍宗を探し出すためにも李斎は泰麒の復活を願う。反面、李斎は暖かくむかえてくれる慶国の宮廷から離れ難くなり、泰麒が目覚めても戴国に戻ろうという意欲を失いつつあった。大人になった泰麒は、そんな李斎に、自分の麒麟としての力が復活していないにもかかわらず戴国に戻り国民の期待にそいたいと告げる。李斎の下した決断は……。
 作者は、陽子の口から天帝への非難の言葉をはかせている。それは、このシリーズ全体の設定がかかえている矛盾をはっきりと書いたということにもなる。実に勇気のある行為といえる。その矛盾に対する答えは、戴国に戻った泰麒の活動次第ということになるのだろう。
 本書では事件全体が解決したわけではない。また、矛盾も解消していない。すべては続巻を待つしかない。しかし、力をなくした泰麒が戴国に戻ると決意した時点で、その答が見えてくるように思う。つまり、素材がよくてもそれを生かすかどうかは料理人次第ということだ。優れた王の素質があっても、立派な王になれるとは限らない。それを磨くのは本人とそれを補佐するものたちにかかってくる。そして、泰麒は遅ればせながらもその役割を果たそうとする。そこに、本書のテーマがあるのではないだろうか。

(2002年1月22日読了)


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