読書感想文


華胥の幽夢
十二国記
小野不由美著
講談社X文庫ホワイトハート
2001年9月5日第1刷
定価5650円

 「黄昏の岸 暁の天 下」に続くシリーズ第7作目は初めての短編集で、通巻第11巻目。
 泰麒が南の漣国におもむき、その政治の違いなどを見聞して自分が戴国でどのように王を補佐すべきかを自覚する「冬栄」。芳国の王に叛乱を起こし手をかけた重臣月渓が王の公主であった祥瓊からの手紙を受け取り、国王不在の間の政治について自らのなすべきことは何かと考える「乗月」。雁国に留学している楽俊と慶国の王陽子との書簡のやりとりからそれぞれが勇気づけられる「書簡」。才国の王が道を誤り国を荒廃させていく中で、麒麟や重臣たちの動きを描いた「華胥」。奏国王の次男、利広が他国の状況を見聞し、自国にかえってそれぞれの国のありように思いをはせる「帰山」の5篇からなる。
 すべての短編に共通するテーマは、人がなすべきことをそれぞれの立場から自覚するということである。それは、私的なことがらもあり、また国家経営という公的なことがらもある。しかし、そこに軽重はない。どんなことがらであろうと、自分のなすべきことを冷静に見つめるという本質は変わらないのだと、作者は訴えているようである。
 さらに、この短編集は、これまでのエピソードでは紹介できなかった国の様子を記すことにより、シリーズの世界観に深みを与える役割を果たしている。1作ごとに長くなりがちなシリーズを引き締めているといっていいだろう。

(2002年2月2日読了)


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