読書感想文


チェンジリング 碧の聖所
妹尾ゆふ子著
ハルキ文庫
2001年7月18日第1刷
定価820円

 「チェンジリング 赤の誓約」の続刊で完結篇。
 異世界の騎士リンに連れられて出生の地であるという〈輝きの野〉に帰ってきた美前だが、彼女は必ずしも真の女王として暖かく迎えられたわけではなかった。彼女の〈取り替え子〉であり次期女王の資格を剥奪された少女マァハの憎しみを受け、さらに女王が〈悪神〉の入れ物でしかないと知る。彼女は自分の価値観で行動しようとするが、それはこの世界では受け入れられないものであった。あまりにも無力であることをさとった美前のとった行動とは。そして、彼女のリンに対する愛情の行方は……。
 前巻で主人公は実世界に自分の居場所がないと悩み、なんとか異世界に移ることを決意する。しかし、本巻では自分が本来いるべき場所であると思われた世界も安住の地ではないということを思い知らされる。価値観や行動の指針が違う世界に連れてこられた人間がそんなかんたんにその異世界になじむはずがないのだという作者の主張がここでははっきりと打ち出されている。さらに、自分の居場所がないと思い違う場所に逃げても、本人の自覚がなければどこにも居場所はないのだという主張もこめられている。
 これは、作者なりに異世界ファンタジーを書き続けてきた結果、到達した結論なのかもしれない。異世界というものが真の意味で異なった世界であることを軽視した「異世界ファンタジー」に対して、作者が突きつけるこの主張は大きく、重い。

(2002年1月27日読了)


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