9篇の短編からなる珠玉のSF短編集。
表題作「五人姉妹」は、人工臓器の実験台となった女性と、その人工臓器が失敗した時に彼女に臓器を提供することになっているクローンの女性5人とのやりとりで綴られる。自分の宿命を受け入れつつ自分なりの生き方を見つける者もいれば、自分の存在を呪い主人公に寄生しようとする者もいる。その人間模様は、人間の命というものの意味を読み手につきつける。ネット上の仮想人格と現実の人格のギャップを、仕事中心に生きる女性の視点から描いているのは「ホールド・ミー・タイト」。現実の自分をこういうものだと決めつけてしまうことの辛さが伝わる。専門の介護人が不要になった世界で、介護されるロボットが開発されるという設定の「KAIGOの夜」は、人間らしく生きるということが問われる。『博物館惑星』の一篇である「お代はみてのお帰り」では、大衆芸能と芸術に差別感をもつ男の内心の葛藤が描かれる。「夜を駆けるドギー」は本書の中でも印象深い作品。ネットで知り合った友人と少年の関係や、電子ペットを利用した人間のランクづけなど、現代社会のもつ問題をSFという枠組みをうまく用いて白日のもとにしていく。「秋祭り」で描かれる未来の田園風景は寒々としたものだ。芸に生きてきた男のその芸を残す執念を描いているのは「賤の小田巻」。「箱の中の猫」で描写される遠く離れた男女の愛情には恋愛というものの本質を探りあてようとする作者の気持ちが強く感じられた。「子どもの領分」では記憶をなくした少年が施設で身につけてきたものを試されるその目的に慄然とする。
本書のどの短編を読んでも、「SFを通じて人間を描く」という作者の意図は十分に達成されていると思う。現代に生きる人間がかかえている問題や、人間のもつ根源的な矛盾などがSFといういわば人工的に極限状態を設定できる方法によって、もののみごとにあらわになる。それは、残酷さであり、悲しさであり、辛さであり、優しさである。作者は現実の問題点を遠慮会釈なく読み手につきつける。そこには思わず顔をそむけたくなるものもある。しかし、顔をそむけてはならない。作者の人間への視線は、突き放した冷たいものではない。どうしようもないものに対しても、それゆえにそそがれる愛情がある。
最近の作者の充実度を示す好短編集。SFファンでなくても十分に楽しめること請け合いである。御一読を勧めたい。
(2002年1月27日読了)