「なつこ、孤島に囚われ。」に続く「森奈津子シリーズ」の2作目。
異端の百合族作家、森奈津子は、コンビニエンスストアで謎の現象に遭遇する。爆風にさらされて倒れたのだが、あたりには何事も起きていない。ところが、その夜彼女の夢枕にサングラスをかけたシロクマという姿をした宇宙人があらわれ、彼らの侵略兵器が誤爆してあの時コンビニにいた女性の性器を男性のものに変えてしまったのだという。それは射精するともとの女性器に戻り、睡眠をとると再び男性器に変わるというのだ。おりしも、女子大生連続殺人事件が起こるが、その被害者はあの夜にコンビニにいた女性たちであった。そして、彼女のもとにナイフをもって現れたのは、やはり男性器をもつにいたった大学生、コネコ。シロクマ星人の被害者の中に殺人犯人がいたとにらむ二人は、最初はお互いを疑うが誤解も解け、協力して犯人を探すことにする。さらに作家仲間の倉阪鬼一郎と秘書のミーコ姫、図子慧、柴田よしき、牧野修、漫画家の野間美由紀たちも謎ときに協力する。両性具有の仲間たちと次々と出会った奈津子がたどりついた真相とは。そしてシロクマ星人の爆弾を誤爆させた真犯人とは……。
本書では、作者による性愛論が主人公の口を通して語られる。この性愛論を語らせたいがために作者は主人公に「森奈津子」を設定したのではないかと感じる。シロクマ星人や実在の作家たちを使った遊びはその趣向を盛り上げるためのもので、この特殊な両性具有の状況を作り出すならシロクマがシマウマでも別によかったのであろう。実名で登場する作家たちは、そのキャラクターを十分に生かした形で登場するのだが、そのあたり楽屋落ちすれすれの線をキープしているうまさは前作同様である。
ある種のサイコ・スリラーである本書がそれほど陰惨にならないですんでいるのはひとえに「森奈津子」という主人公のキャラクターにかかっている。作者にそれだけのイマジネーションをあたえた実在の森奈津子さんもすごいけれど、完全に「森奈津子」というキャラクターを消化して本人が書いているかのように思わせる作者の力量にも脱帽した。
性愛の奥行きの深さをサイコ・ミステリーの形をとりながら描写したという怪作。いやいやまいった。
(2002年2月14日読了)