読書感想文


よろず電脳調査局ページ11 青の妖精
東野司著
徳間デュアル文庫
2002年2月28日第1刷
定価562円

 「鋼鉄の天使」に続くシリーズ第3弾。
 電脳トラブルの民間調査機関「ページ11」に入社した浦島かえでは、大空藤丸を指導教官として、本格的な活動を始める。ネット上に現れた青色の幽霊が、現実世界にも出現するという事件に取り組んだかえでだが、その幽霊の姿は、かつて一世を風靡した仮想アイドル、京美とそっくりであることが、ミルキーピア社にいた片山秀人によって明らかになる。一方、宗教団体フラワーチルドレンの教祖、火打を中心とした怪しい動きがネット上をかけめぐっていた。藤丸はフラワーチルドレンの調査をはじめ、そしてかえでは京美そっくりの青い幽霊を、自分の持つデジタル世界を知覚する能力を使って追いかける。青い幽霊の正体は、そして、火打の陰謀は……。かえでの活躍が再びはじまった。
 本書には、オールドファンには懐かしい「ミルキーピア物語」の登場人物が多数登場する。これは、本書が「ミルキーピア」の続編であるということを意味するのではなく、「ミルキーピア」からは独立した物語なのだということを示すためだろう。いわば、「ミルキーピア」との訣別宣言だといっていい。
 さらに、強い能力を持つために特別扱いされる主人公、かえでがその力の重要性を理解し、自分のポジションを確認する物語でもある。
 そういう意味では、作者自身が引きずっていたであろう「ミルキーピア」へのこだわりをたちきり、「ページ11」として、かえでの物語としてこのシリーズを書き続けるのだという意志表明に他ならないのだ。
 「ミルキーピア」を知らない世代にとっては、このエピソードにはとまどうこともあるかもしれない。しかし、逆に「ミルキーピア」がなければこのシリーズははじまらなかったのだということを知ってもらうためにも本書は書かれなければならないものだったのではないだろうか。そして、そういった新しい世代が古書店などで「ミルキーピア」を手にとることをちょっと期待したい気もするのである。

(2002年3月1日読了)


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