読書感想文


KLAN III 迷走編
田中芳樹原案
霜越かほる著
集英社スーパ−ダッシュ文庫
2002年2月28日第1刷
定価476円

 「KLAN II 逃亡編」の続巻。
 リンフォード伯爵の手から逃れるため、虎ノ介たちはばらばらに暮らしはじめる。虎ノ介は偽名を使い、大検予備校に通いながら小さなアパートを借りている。その大家の娘、由加子はいじめの被害にあった過去があり、全てに引っ込み思案だったが虎ノ介と出会うことにより、明るさを取り戻していく。美笛と風子はリンフォード伯爵から奪った貸金庫の鍵を使い伯爵が大切にしている箱を入手する。箱は孝行が受け取ったが、美笛と風子は伯爵につかまってしまう。箱を手にいれたことにより、孝行と虎ノ介は伯爵にその居場所を知られてしまう。その危機を救ったのはなんと由加子であった。彼女も潜在的に変身能力を持っていたのだ。虎ノ介が近くにいることにより、クランが発動してしまったのである。由加子を巻きこむまいとする虎ノ介たちは、アパートを離れて美笛たちを救出しようとする。伯爵の箱に秘められた謎とは。そして美笛と風子を待ち受けていたものは……。
 潜在的なクランの持ち主に対し、自分たちの戦いの巻き添えにしてはいけないとする主人公たちの姿勢と、サディスティックで人間をコマとしか見ていない敵役という善悪の差をはっきりと見せるのが本書の狙いであろうか。それはそれでわかりやすくてよいのだが、私には少々食い足りない。主人公たちが敵にひれふしたくなる一瞬があったり、悪役がちらりと見せる魅力などがあってこそ、戦いはさらに奥の深いものになっていくと思うのだ。
 原案で示されたクランという概念はおそらく手塚治虫の「バンパイヤ」あたりの影響ではないかと思うのだが、それならば悪役にも読者をひきつけるだけの魅力をもたせるというとこらあたりも引き継いでもらいたいところである。
 物語はいよいよ緊迫感を増してきた。敵役に悪の魅力が備われば、さらに面白くなるはず。次巻こそその魅力を引き出してもらいたいものである。

(2002年3月9日読了)


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