「パクス・イスラミカの世紀」に続くイスラーム史シリーズの3冊目。
本巻では近代化するヨーロッパ諸国に武力で敗れ、分割されていくイスラーム諸国の様子がたどられる。それは、産業革命以降、急速に資本主義が発達し世界を壟断するヨーロッパ世界の醜さを描いたものであり、また、それに対応し切れない硬直化したイスラーム世界のもろさを明らかにしていく過程でもある。第一次世界大戦でドイツについて敗れたあとここぞとばかりに支配領域を奪われていくオスマン帝国の哀れさ。ロシア帝国の崩壊を招く叛乱を起こしながらもそれに助けられたソビエト連邦によって逆に社会主義を強要される中央アジアの国々。ヨーロッパにならって近代化を進めようとしながらもイスラームの抵抗勢力によって失敗を余儀無くされるアラブ諸国。シオニズムを利用した英米のためにイスラエルとの紛争を運命づけられることになったパレスチナ。
産油国として富が集まるようになったイスラーム諸国は世俗的な方向とそれに対する原理的な運動の二方向に引き裂かれようとする。それは、本シリーズが書かれてから10年たった今でもイスラーム諸国がかかえている大きな問題であり、いまだ解決しない亀裂でもある。
2001年9月の航空機テロ以来、ますま予断を許さないイスラーム情勢であるが、こういった通史を読むことにより、その問題の根本的な部分を少しでも理解できるような気がする。それは、宗教というくくりにより団結するイスラーム諸国の力と、そしてその縛りのために動きが取れない弱さである。さらにアラブ、トルコ、ペルシアなど民族別の対抗意識もかいまみえる。ただ、民族を越えて結びつく宗教の力の大きさというものは、宗教に依存することの少ない日本という国に生まれた私にはなかなか実感しにくいものでもある。
今後、私たちはもっともっとイスラーム世界について知識を蓄え見識を深める必要がある。それを実感させてくれた3冊であった。
(2002年4月16日読了)