「立川談志遺言第全集14」に先立つ伝説的な落語論の復刊。
著者20代の時の落語論である。テレビというメディアが寄席のあり方や芸人のあり方を変えつつあった時代である。著者は現役の若手落語家として、真摯にその問題に取り組み、落語の本質を踏まえた上で以後の落語家がどうあるべきかを論じる。
当時、落語家自身がこういった文章を書くこと自体が珍しかったということもあり、かなり話題にもなり、また本書を読んで落語家を志したものもいたという。そういった予備知識はあったので、どれくらい革命的なことが書かれているか興味をもってページを開いた。一読後、そのまっとうさに驚いた。それは、現在の落語をとりまく状況が、著者の予想した通りに推移したということなのだろう。だから、実に当たり前のことが書かれているとしか感じられないのである。そういう意味では、著者の洞察力の深さに感心してしまっている。
巻末に追加された現在の立場から書かれたものについては、自分の洞察が当たっていたことに対する絶望感が感じられる。神経の細やかな著者にとっては、この状況は耐え切れないのだろう。だからこそ落語の本道をいこうとしていたはずの著者は「落語イリュージョン」説を提唱し、芸の「型」を壊しにかかったに違いない。
本書は、著者の原点であると同時に、落語をとりまく環境が激変した時代の空気を今に伝える貴重な証言なのである。
(2002年2月28日読了)