「一休暗夜行」につづくシリーズ第2巻。
主家を離れて庵に暮らす歌人のもとに夜な夜な通う女性の正体は……(「紅紫の契」)。旅の高僧を招いて病を治療してもらおうとする領主の真の目的は……(「泥中蓮」)。足軽から出世した姿を家族に見せようと意気揚々と帰郷した侍を待っていた村人たちはかつて戦場で死んだ者たちばかりであった……(「うたかたに還る」)。南朝の残党につかまった一休が出会った人を襲う妖鳥とは……(「けふ鳥」)。大徳寺の高僧が深夜の琵琶湖に一人でこぎ出した舟に乗って遭遇した怪異(「舟自帰」)。豪商が手に入れた美人画から女性が抜け出し人を食べる。謎の解決を依頼された一休がたどりついた真相は……(「画霊」)。死の直前にある老師の影を食らう鮫の姿を見た一休とその兄弟子である養叟が示した反応の違いとは……(「影わに」)。
壮年期の一休が様々な怪異に出会い、それを解決していく短編集。短編集のタイトルにもあるように、「闇」がキーワードである。それは、夜の闇であり、心の闇でもある。南北朝の争乱を経て戦国時代にいたる室町時代中期を舞台に、欲望や苦悩にまみれた人々の心のすきをついてあらわれる怪異。それを解決する一休は求道者であり、また自らも懊悩する者である。
作者はそういった人々の心の闇を伝奇小説として目に見えるように我々に提示する。ある意味では煩悩を踏み越えた存在である一休は、それでも生身の人間である。だからこそ、人々の苦しみが読み手に強く伝わり、その苦しみを受け止める一休の厳しい心のうちからにじみ出る感情が重みをもって伝わってくるのだ。
それは、先の見えない状況にある現代人の苦しみに通じるものだろう。本書には哲学的なテーマ、つまりいかに生きいかに死ぬかというテーマや、目の前に見えるものと見えないものをどう認識するかというテーマなどがうまく物語に消化されて描かれる。
シリーズはまだまだ続きそうだ。その展開が楽しみである。
(2002年5月2日読了)