「キマイラ群狼変」に続く2年ぶりのシリーズ第16弾。
九鬼玄造がひもとく橘瑞超の「辺境覚書」がやっと語り終えられる。馬垣勘九郎はキマイラの腕を手にいれ、それを帰国の途につく橘瑞超に託す。腕を欲しがる謎のロシア人、グルジェフ。物語は、橘が帰国の途についた後の様子を記した吉川小一郎の「西域日記」に移っていく。そして、それらがひもとかれる間に、現代でも九鬼の持っていたキマイラの腕を狙って謎の賊が現れ、半分に切り落として片方を奪っていく。馬垣と吉川が出会った腕を求める新たな人物の正体は……。そしてその腕と現代のキマイラとの関係は……。
謎はまだ提示されている段階である。いや、謎を説く鍵が提示される過程というべきか。キマイラを求めるものは明治時代からいたということ、それがこの物語の結末にいずれ大きく影響していくことになるのだろう。しかし、それが明らかになるには、物語の展開は遅々として進まなさすぎる。
しかも、あとがきによると、今後は本シリーズはハードカバーが先に出版されて文庫は後になるという。それは出版の常道になるだけだと書かれている。だがちょっと待ってほしい。現在のペースだと文庫1冊分に2年かかる。そしてハードカバーの愛蔵版は文庫2冊分が収録されている。ということは、文庫でこれまで読み続け、今後も文庫で揃えたいと思う者は、4年は待たなければならないということになる。初期からの愛読者にとっては、これは裏切りとまではいわないまでも、なにか釈然としないものが残る。あんまりである。このシリーズが作者の原点だというのなら、文庫からまず出すというスタイルを守り続けることこそが原点を大切にすることにほかならないのではないのかと思う。むろん、出版社の都合もあるだろうが……。こうなれば、掲載誌で先に読んでおくしか渇をいやす方法はない。それがまた1回分の分量が少ないんだな。隔月刊だし。再考を願いたいところである。
(2002年5月15日読了)