曲亭馬琴の名作をベテラン作家がリライトしたもの。作者は馬琴がよほど好きとみえて、「南総里見八犬伝」もリライトしている。
保元の乱で敗れ去り伊豆大島に配流となった鎮西八郎為朝は、その地で住民たちに慕われ、島の妻や、さらに南下してたどりついた女護島の妻との間に子をなす。それでも父の敵討ちを忘れない為朝は本土を目指して旅立つが行く手を阻まれ、崇徳院の霊などに見守られ琉球に流れ着く。琉球では蛟の墓から現れた怪人、曚雲が国王をたぶらかし、その正統な後継者である寧王女を追い出し、国王の正室中婦君や奸臣利勇らを操る。瀕死の王女に憑いた為朝の妻白縫の霊の加護もあり、為朝は国王の忠臣たちとともに兵を挙げ、曚雲と対決する。
馬琴らしく、勧善懲悪、因果応報というテーマが貫かれている上に、登場人物全てがなんらかの縁で結ばれるという実に細かなところまで気を配った相関図を描いている。そして、その上に謎の怪物「ワザワイ」やら蛟やらを繰り出し痛快な伝奇ロマンに仕上げている。
私は「弓張月」を読むのは初めてだが、「八犬伝」は岩波文庫版の原文を読んだことがあるので、馬琴の文体や展開のさせ方を知っているが、作者のリライトがその馬琴の味をそこなうことなくうまくまとめているのに感心した。
さらに、このストーリーはNHK人形劇「新八犬伝」で脚本家の石山透が流用しており(為朝の役を犬塚信乃にあてていたり、義賊ウンタマギルーが登場したりしていたが)、そういう意味でも懐かしく読めた。
物語が二転三転して先が読めない楽しさなどいかにも馬琴らしく、伝奇ロマンの原型がここに示されている。ご都合主義もはなはだしい部分が多々あり、大傑作というほどのものではないかもしれないが、本書を読むとリライトではなく自分なりに構成し直して「新弓張月」というべきものを書きたくなってくる。
(2002年5月18日読了)