読書感想文


陰陽ノ京 巻の三
渡瀬草一郎著
メディアワークス電撃文庫
2002年5月25日第1刷
定価550円

 「陰陽ノ京 巻の二」の続巻。
 文章生、慶滋保胤は以前彼が助けた播磨の外法師、弓削鷹晃の訪問を受ける。おりしも京の都には雨が降りだし、鴨川や桂川が氾濫しそうな気配である。そして、雨によってもたらされた雷が愛宕山中に落ちた時、3年前に賀茂保憲らが大百足を封じた岩が打ち砕かれる。復活した大百足を再び封じるために苦慮する安倍晴明たち。龍神の血をひく鷹晃は大百足の格好の餌なのである。大百足に力を与えたのは、人間の作った蠱毒であったことを知り、保胤は人の業の深さに悩む。大百足は、愛宕山中で鷹晃と、彼に親しみを感じている謎の老人蘇芳を襲おうとしていた。保胤たちは大百足を再び封じることができるのか。蘇芳の秘密が明らかになる時、何かが起こる……。
 本書では、俵藤太の百足退治に材を取り、人間の欲望というものを表現しようとした意欲作である。人が人である理由が、本書では派手なアクションをとりまぜながら、自然な形で描かれていく。登場人物たちの独白はかなり抑制され、ストーリーによってテーマを語るということができてきている。そういう意味では、作者の成長を実感できるものだといえよう。シリーズの利点を生かしながら、マンネリに陥らないような工夫もなされている。ここらあたりも書き慣れてきている証拠といえる。
 まだまだシリーズは続くようなので、今後もさらなる成長を期待できそうで、今から楽しみである。

(2002年6月12日読了)


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