読書感想文


ローマ人の物語4
ハンニバル戦記[中]
塩野七生著
新潮文庫
2002年7月1日第1刷
定価438円

 「ハンニバル戦記[上]」の続巻。
 本巻では、第二次ポエニ戦役の様子が描かれる。
 希代の戦術家ハンニバルの登場なのである。スペインの地に足場を築いたカルタゴの若き知将ハンニバルは、第一次ポエニ戦役の仇を討つべく、ローマ攻めを敢行する。しかも、象をつれてアルプスを越えるという奇策をとる。これに対し、さしものローマの執政官たちも後手にまわり、ついにはイタリア南部を占領されてしまう。ここに登場するのがハンニバルの戦法を学びとった若き戦略家、スキピオであった。カルタゴ本国を攻めてハンニバルへの補給路を断ち、ついには直接対決に至る。「ハンニバル戦争」とローマ人が名づけた長い戦いに終止符が打たれようとしていた。
 私の印象では、ハンニバルといえばまず象のアルプス越え。しかし、実はその象は実際には冬季の北部イタリアでほとんど失われてしまっていたのであった。頼みの象が使えない状況で、そこから劣勢をはねかえしていくハンニバルと、知略の限りをつくすスキピオの戦いを、作者は熱くなりすぎず、しかし山場はきちんとおさえて記述していく。それは、ベテランのアナウンサーによる落ち着いた実況がかえって試合の盛り上がりを視聴者に伝えていくのにも似ている。絶叫を繰り返していては、どんな熱戦も嘘臭い凡戦に堕してしまう。
 そういう点で、本書の戦闘の描写は当時の興奮すべき一瞬を鮮やかに切り取ってくれているのである。戦いの結末は、次巻にまわる。戦後処理も含めて、この戦いの決着を著者がどう伝えるのかが楽しみである。

(2002年7月7日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る