読書感想文


ローマ人の物語5
ハンニバル戦記[下]
塩野七生著
新潮文庫
2002年7月1日第1刷
定価400円

 「ハンニバル戦記[中]」の続巻。
 本巻では、第二次ポエニ戦役の結末と、その後のカルタゴの滅亡までが描かれる。
 スキピオのカルタゴ攻略で、とうとうハンニバルは本国に呼び返される。両雄が直接対決した「ザマの会戦」でスキピオはハンニバルの戦術の裏をかき、ポエニ戦役を終結させる。ハンニバルの戦術を研究しぬいたスキピオの勝利である。しかし、そのスキピオも戦後は大カトーにより追い落とされ、自らの使命を果たしたと隠棲することになる。戦いに倦んだローマであったが、フェニキア王国から戦いを挑まれこれを滅ぼし、カルタゴもまたその流れの中で三たびローマに戦いを挑むこととなりついには滅びへ野道をたどる。かくしいローマは名実ともに地中海の覇者となるのである。
 本書で描かれるのは、国家というものの盛衰であり、それは運命的なものではなくちょっとした偶然から変わっていくということだ。カルタゴは滅びなければならない運命にあったわけではない。しかし、偶然の積み重ねがその条件を整えてしまったというだけなのである。英雄は英雄として生まれるのではなく、その中で英雄となることを求められるのである。
 この「ハンニバル戦記」では、英雄というものの華やかさに隠された哀しさとでもいったものがあますところなく記されている。このポエニ戦役はローマ史でもハイライトというべきものであるけれど、どこか寂しさをたたえているところにこのシリーズの意図するところが見えてくるように思う。

(2002年7月9日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る