読書感想文


展翅 撩乱−昭和七六年、春
東野司著
学研M文庫
2002年7月15日第1刷
定価680円

 「展翅蝶−昭和80年、夏−」の前日談にあたる第2弾。
 昭和78年、神那川縣横濱市で一家四人の斬殺事件が起こる。双子の子どもも両親も血だらけになっていた事件現場に残された謎の手形。人のものではなく、類似した動物のものもない。科学操作課の捜査官、瀬戸はるかが検証するがどうしても真相を見つけだせない。そんな彼女に下されたのは第弐外地資料課にいき、渡会一馬という捜査官とともに真相を探ること。この第弐外資課は人知を越えた不可思議な事件を解決するセクションなのだ。度会と瀬戸は過去の資料を検討し、その手形が50年以上前に発見された河童の手形と類似していることを突き止める。河童の目撃談を探す中で、10年前に河童を目撃した少年の存在が浮かび上がっていく。彼を訪ねる二人だが、彼は行方不明であった。河童が目撃された江之島から掘られたトンネルを探るうちに、渡会は謎の河童の正体に思い当たる。それはホムンクルス……人造人間ではないだろうか。事件を探る二人の前に現れた少女の姿。そして、そこには羽を持った不思議な生物が……。
 錬金術やホムンクルスなどの疑似科学をモチーフに、ミステリ仕立てで物語は展開する。ここでは、前巻で示された日本を破滅させる怪獣が出現するという事件に関わる重大なできごとが明らかになる。それは、元号がいつまでも昭和であるということにも関わってくるのだろうが、本書ではそれはかすかに匂わせるだけで踏みこまない。それよりも、現代の日本が抱える病巣を怪事件というものを通じてえぐり出そうという試みがテーマとなっているのだろう。
 ここでは責任というものをうやむやにしてしまう現代社会が皮相的に描かれ、それによってねじ曲げられた少年の心理が次第にあらわになるように物語が展開する。度会という洞察力の優れた男性と瀬戸という思いこんだら一直線という女性のコンビが狂言回しのように物語を進めていくことで、それがわかりやすく示されている。
 次作ではいよいよ怪獣の核心にふれるのだろうか。それともまだ外堀を埋めるように真相へ至るものの鍵を断片的に提示していくのだろうか。スケールの大きなパラレル・ヒストリーが構築されようとしている。楽しみな展開になってきた。

(2002年7月12日読了)


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