シベリアの奥地ツングースに落下した謎の物体。その落下とともに起きた大爆発。大日本帝国軍謀略戦の総帥、明石元二郎はかつての部下である武藤淳平に命じてその落下箇所を調査させる。武藤とともにかの地に赴くのは、大陸浪人の俊藤鉄治、地獄を求める文士の伊沢恭介、憲兵隊の若き軍人の村井満、正体不明の医師の大隈博文。彼らの行く手を妨害しようと怪僧ラスプーチンや妖術師グルジェフらの手がのびてくる。さらにロシア人女性アンナもメンバーに加わる。地元の人々たちから「地獄」と呼ばれる地下の魔境に到達した彼らは、そこで絶滅したはずの恐竜の群れと遭遇する。さらに、グルジェフの配下である黒服の兵士たちの襲撃を受ける。ツングースに落下したものはいったいなんだったのか。そして、それがもたらすものは……。
作者が再度挑戦した秘境冒険小説。登場人物の多彩さ、そして細かく組み立てられたストーリー、壮大なテーマが読者を否応もなく作品世界に引きずりこむ。小説のできとしては「崑崙遊撃隊」よりも上かもしれない。ただ、作者が試みようとした「秘境小説」の再生という意味では、「崑崙遊撃隊」がその意気ごみが強い分だけ読み手を引き付ける力をもっているかもしれない。今回再読する前に、私自身はどちらかというと本書の印象が薄かったのはそのせいなのだろうか。完成度の高さがかえって印象を弱めているということがあったかも。まあどちらにしてもかなり次元の高いところでの話ではある。
どちらにせよ、これら2作で作者が試みた「秘境冒険小説」への挑戦が成功していることはいうまでもない。作者はここからさらに高みに上るようにSFを極めていこうとするのだが、そのステップといってもいいのではないだろうか。そろそろ久しぶりにこの系統の新作に取り組んでもらいたいと思うのは私だけではないはずである。
(2002年8月4日読了)