「角王 ツヌノオオキミ」に続くシリーズ第2弾。
ツヌノオオキミの後継者に選ばれたイクメノオオキミは、自分が父ほどの力をもっていないことに劣等感を抱いていた。彼はカヌサイの宮の巫女、サホ姫に恋をし、強引に結ばれる。しかし、神域で姦淫したことにより呪を受けたイクメノオオキミの顔は醜くただれてしまう。その呪を解くにはタニワの国の姫をめとりその間に産まれた娘を斎宮にしてカヌサイの宮を守らせる必要があるという。アワウミの国のマワカ王子はツヌノオオキミの子どもであり、その神秘的な力を引き継いでいた。その証拠としてマワカ王子の額には角が生えていた。マワカ王子は大王の座をうかがう一方、イクメノオオキミの妻として迎え入れられたタニワの国のヒバス姫のことも愛していた。イクメノオオキミはサホ姫を愛し、ヒバス姫は自分の呪を解くための相手としか考えていない。しかし、サホ姫は双子の兄のサホ彦の叛乱に同調し、命を断ってしまう。サホ姫への思いを断ち切れないイクメノオオキミは死反玉を用いてサホ姫をよみがえらせようとするのだが……。
垂仁天皇をモデルとしたイクメノオオキミを主人公とし、偉大な創業者のあとを継ぐことになった平凡な人間の苦悩を描いている。イクメノオオキミは常に迷い、悩み、その解決法を提示されても自分の想いに執着してしまう。その影として登場するマワカ王子もまた、神秘的な力は受け継いだものの精神的には常に思いまどう人物である。
本書は前巻よりもファンタジー色は薄い。確かに神器を使用して奇跡を起こしたりはするのだが、それはあくまで道具立てに過ぎず、ストーリーは主人公たちの人間であるがゆえの苦悩を中心にしたものである。
やはり、作者は伝奇ファンタジーとしての日本神話という形態を借りて、文学的なものを追求しようとしているようだ。そして、本巻はまさしくその狙いにうってつけのキャラクターを主人公としている。
続巻では日本神話最大のヒーローであるヤマトタケルが主人公となる。作者がどのようにこのヒーローを描くのか、楽しみでならない。
(2002年8月5日読了)