石井咲子は高校生の時に長女美佐緒を妊娠、結婚したため中退。その美佐緒が高校入試となり、ちょっとした口論から自分も同じ高校を受験することにし、みごと合格。現在は母子ともに同じクラスの高校2年生。長男の新哉はやはり同じ高校の1年生。「友だちのような母」が実際に同級生になったら、本当の友だちにはなれないことに気がついた美佐緒は同級生の上沢君に恋をするが、実は上沢君は咲子にほのかな恋心を抱いていたりする。母と姉を見て育った新哉は女嫌いになってしまっていたが、気がついたら東京からの転校生高千穂さんのことを好きになってしまっていた。咲子の夫、紘太郎は直情径行気味のトラック運転手。頼りにされたら嫌とはいえない。フィリピンパプのホステスのでっちあげのプロフィールに同情して店に通い詰めている。そんなところへ咲子の友人芙美子が夫とけんかし子どもといっしょに家に転がりこんできたり、実母が急病で倒れて入院したりと立て続けに事件が起こる。どんなことがあってもめげない咲子だったが……。
どんな日常も、視点をずらすとまるで違うものに見えてくる。作者は母と子が同じ高校に通うという設定でその「視点のずれ」をみごとに演出してみせた。大阪を舞台にしているのもよい。ぎすぎすしがちな人間関係が、大阪独特の空気により、笑いに転化される。
そしてまた、本書は「大阪小説」の系譜をみごとに継いでいる作品でもある。えらそうにしてても芯はあかんたれの男ども、主人公の咲子はもちろんのこと最初は受け身のキャラクターとして登場した芙美子もいざとなるとどんと二本の足で大地に立っている。むろん作者は織田作之助の「夫婦善哉」を意識して本書のタイトルをつけたに違いない。それは、「夫婦善哉」以来の大阪小説の正統な後継者であることを宣言したに等しいのだ。
軽妙なタッチと精妙な人間描写、微妙な感情のあやを笑いで包む展開など、とにかくうまい。そして面白い。大阪を舞台にした小説に、またひとつ秀作が加わった。
(2002年8月13日読了)