「さまよえる海 上」に続くシリーズ4冊目。
〈生きている水〉を飼い馴らしに来たはずのミリたちは、逆に砂漠に突如現れたその〈生きている水〉にとらわれてしまうことになる。しかし、地下の洞窟で〈生きている水〉の中枢部と接触することに成功したミリは、ヒロシちゃんと名づけられた水を飼い馴らすことに成功する。コンタクトに成功し、水をあるべきところに戻すことができるようになったと思いきや、ポチがヒロシちゃんの一番嫌う電撃を与えてしまう。電撃によって変質したヒロシちゃんは、地上に吹き出し、物質を汚染しはじめた。一方、タイは〈生きている水〉そのものを釣り上げるという大胆な欲望を抑え切れず、そのために小惑星型の航宙物体をヴィニヤードの衛星軌道上に乗せて壮大な網を張ろうとさえする。しかし、そのために惑星ヴィニヤードそのものが大変動を起こしはじめた。ミリたちはヒロシちゃんをもとの美しい海に戻すことができるのか。
ミリたち以外の「生きている海」との意志の通じ方が精神感応的なものになる点だけが気にはなったが、ミリたちがヒロシちゃんと会話をしようとする方法などは作者らしい気のきいたアイデアで読ませてくれる。
これは単純な「自然との共生」という物語ではない。先住者と闖入者の葛藤の物語なのである。それが全くの他者であるミリたちの介入という要素で新たな刺激を受け解決に向かうという筋立てとその話の運び方が巧みなのだ。そし、そのシリアスなテーマ設定と登場人物たちのドタバタぶりの間に齟齬が生じていないという点にもうならされた。下手をするとギャグだけが浮いてしまうのであるが、そうならないところが作者のセンスのよさなのだろう。
楽しく、そして内容のぎっしりつまった秀作である。
(2002年8月17日読了)