「ダマスカス・ハート 上」に続くシリーズ第3巻。完結篇である。
神武コンツェルンの陰謀に対し、旅士の実家である御鏡グループも動きだした。祖父御鏡秀善は沖縄までやってきてシュレイオー・チームに協力を依頼する。しかし、神武コンツェルンから亡命してきたリミティアをめぐり、アロウと虎鈴が対立、旅士もアロウの前では素直になれない。そんなさなか、仙界の命令により、彼らの司令官井草がこの戦いから外れることになってしまった。リーダーとしてチームをまとめなければならないという責任を負う旅士。苦悩する彼をあざ笑うかのように、神武コンツェルンのクーデター計画は着々と進む。シュレイオー・チームはクーデターを防ぐことができるのか。
作者が本書で書きたかったことは、「平和」の重みだったのだと思う。戦い、敵を倒す物語を作るのはたやすい。しかし、作者は主人公たちには極力人殺しをさせまいとしている。こういった制約を自らに課すというのは、戦闘兵器の活躍する作品としてはかなり大変なことだっただろうが、いささかアクロバティックとはいえ、最後までその意志を貫くところに好感がもてた。
ただ、上巻の感想にも記したけれど、このストーリーで若い主人公たちの恋物語にかなりの分量をさいているのは、全体の構成からいうとやはりバランスが悪いように思う。恋物語がテーマに直結していないわけではないのだが、それにしても物語に彩りを添えるという感じのエピソードにあそこまでページをさく必要があったのかどうか。それともテーマが重すぎると見てこういう構成にしたのか。
もっと濃密な展開でよかったと思う。戦闘シーンの迫力など、それだけで読ませるだけのものはあるのだから、1冊にまとめてそのかわりページをくる手を休める暇もないようなものにしてもよかったのではないだろうか。それだけの力が作者にはあると思うのである。
(2002年9月11日読了)