読書感想文


玄琴打鈴
銀葉亭茶話
金蓮花著
集英社コバルト文庫
2002年9月10日第1刷
定価476円

 「銀珠綺譚」以来4年半ぶりのシリーズ第6巻。
 仙境にある茶店「銀葉亭」の主人、李月流を訪ねてきた尼僧が彼に預けていったのは、柳一葉という名の男の遺骸であった。彼は平壌の名門の嫡男として生まれ、親の期待通りに科挙の大科に合格した秀才であったが、彼の弟、一樹はそんな彼と比較されることに人知れず苦しさを抱いていた。一樹の心を癒してくれたのは兄が漢陽で師事し故郷に呼び寄せてくれた洪東朱だけであった。一樹が恋をした相手の父親がその娘を兄に嫁がせようとし、兄がその縁談を断わったことから2人の関係ははっきりと悪化する。一葉を待ち受けていた悲劇とは……。
 李氏朝鮮の時代を舞台に、裕福な家庭に生まれ優秀な頭脳をもった兄弟を見舞う悲しい行き違いをきめ細かい筆致で描く。背景にある朝鮮文化の描写が、この悲劇をさらに際立たせる役割を果たしている。本書では主人公たちの過去が描かれているが、遺骸となった兄がこのあとどうなるのか、そして弟を襲った運命などは次巻に持ち越されている。作者ならではの緻密な人間描写が光る一冊であり、続巻に期待が持てる。できればあまり間をあけずに刊行してもらいたいものである。

(2002年9月20日読了)


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